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12月上旬、長野県諏訪市周辺のエリアを訪れました。
冬の入口に立ったばかりのこの季節の諏訪は、空気が澄みわたり、遠くの山々の稜線まではっきりと目に映ります。観光シーズンの賑わいがひと段落した町は、どこか静かで、まるで深く息を整えているかのようでした。

湖畔を吹き抜ける冷たい風、足元でかすかに鳴る落ち葉の音。そんな一つひとつが、この土地が持つ時間の流れをゆっくりと感じさせてくれます。

せっかく諏訪まで足を運んだのなら、一か所だけで帰るのはもったいない。
そう思い立ち、今回は「観光」というよりも、「ご挨拶」に近い気持ちで、諏訪大社の四社すべてを巡ってみることにしました。

華やかな旅ではありませんが、土地と信仰の関係に、静かに向き合う時間となりました。

諏訪大社とはどんな神社か

諏訪大社は、日本全国に点在する諏訪神社の総本社であり、日本最古級の神社のひとつとしても知られています。その最大の特徴は、「四社から成り立っている」という、全国的にも珍しい形にあります。

多くの神社では、一つの境内に本殿があり、そこで参拝が完結します。しかし諏訪大社は、上社と下社に分かれ、それぞれがさらに二社ずつ存在しています。

  • 上社 前宮(まえみや) 茅野市
  • 上社 本宮(ほんみや) 諏訪市
  • 下社 春宮(はるみや) 下諏訪町
  • 下社 秋宮(あきみや) 下諏訪町

この四社すべてを合わせて、はじめて「諏訪大社」と呼ばれます。一社だけを参拝しても、もちろん間違いではありません。しかし実際に四社を巡ってみると、点だった印象が線となり、やがて立体的に浮かび上がってくるような感覚がありました。

それぞれの社が置かれた場所、その空気感の違いこそが、諏訪大社という存在を形づくっているのだと感じます。

諏訪大社 上社前宮を訪れて

最初に向かったのは、上社前宮です。
諏訪大社発祥の地ともいわれるこの場所は、山のふもとにひっそりと佇んでいます。

観光地としての賑わいはほとんどなく、境内には凛とした静けさが広がっていました。華やかさはありませんが、その分、余計なものが削ぎ落とされたような、原初的な空気が漂っています。

社殿の背後には自然がそのまま残され、人工物と自然の境界があいまいです。神様を「建物の中」に迎え入れるというよりも、「土地そのもの」に宿している。そんな信仰のかたちを、肌で感じることができました。

冬の冷たい空気の中では、土の感触や山の存在感がより強く伝わってきます。足元から、静かに大地の力を受け取っているような、不思議な感覚が残りました。

御柱と「鎌倉道」
前宮の本殿

諏訪大社 上社本宮を訪れて

続いて訪れたのは、上社本宮です。
大きな鳥居をくぐると、一気に視界が開け、ここが諏訪大社の中心的存在であることを実感します。

前宮が「始まりの場所」だとすれば、本宮は「人々が集う場所」。参拝者の姿も多く、観光地としての側面もはっきりと感じられます。それでも境内に足を踏み入れると、不思議と気持ちが落ち着き、自然と背筋が伸びました。

前宮の素朴さとは対照的に、本宮は整えられた空間の中に、長い歴史と人々の信仰の積み重ねが感じられます。同じ上社でありながら、二社を続けて巡ることで、諏訪大社という存在の奥行きが、より鮮明に見えてきました。

修理の案内看板がありました
大きな御柱でした

諏訪大社 下社春宮を訪れて

上社を巡ったあと、諏訪湖方面へ移動し、下社春宮を訪れました。
春宮という名前のとおり、どこかやわらかく、穏やかな印象を受ける神社です。

境内は決して広くはありませんが、落ち着いた雰囲気があり、地域の暮らしのすぐそばにある神社だということが伝わってきます。上社が「山」とのつながりを感じさせる場所だとすれば、下社は「人の営み」に寄り添う存在のように感じられました。

冬の静けさの中で、時間がゆっくりと流れているような感覚。自然と呼吸が深くなり、心がほどけていく場所でした。

春宮の御柱です

諏訪大社 下社秋宮を訪れて

四社巡りの最後に訪れたのは、下社秋宮です。
四社の中では最も賑わいを感じる場所で、温泉地にも近く、観光と信仰が自然に溶け合っています。

春宮とは距離的にも近い位置にありますが、雰囲気は大きく異なります。秋宮は開放的で、初めて諏訪大社を訪れる人でも、気負わずに参拝できる印象があります。

この場所に立っていると、諏訪という地域が、信仰を特別なものとして切り離すのではなく、日常の延長線上に大切に置いてきたことが、自然と伝わってきました。

マンホール蓋にも地域性が感じられました

下諏訪町
茅野市

四社を巡って感じたこと

諏訪大社四社を巡って、強く印象に残ったのは、「同じ神様を祀っていても、場所によって役割や表情がまったく違う」ということでした。

山に近い場所、湖に近い場所、人の暮らしの中心にある場所。それぞれの土地に合わせて、神社のあり方も自然と変化してきたのでしょう。

一社だけを訪れただけでは見えなかった諏訪大社の姿が、移動しながら巡ることで、少しずつ一本の線としてつながっていく。そんな感覚が、今回の旅では何度もありました。

12月上旬の諏訪参拝について

12月上旬の諏訪は、本格的な雪の季節の少し手前。寒さはありますが、観光客は比較的少なく、静かに参拝したい方にはとても良い時期だと感じました。

防寒対策は欠かせませんが、その分、澄んだ空気と冬ならではの景色の中で、落ち着いて神社と向き合うことができます。賑やかな季節とはまた違った、諏訪の魅力を味わえる時期です。

まとめ|巡ることで見えてくる諏訪大社

諏訪大社は、一社だけを訪れても十分に魅力を感じられる場所です。しかし四社を巡ることで、土地と信仰がどれほど深く結びついてきたのか、その本質が少しずつ見えてくる神社でもあります。

それぞれの社に意味があり、役割があり、そのすべてが重なり合って、今の諏訪大社が形づくられています。
また季節を変えて訪れたときには、きっとまったく違う表情を見せてくれることでしょう。

冬の諏訪で感じた、土地と神様のつながり。その静かな余韻は、今も心の中に残り続けています。

諏訪大社四社めぐりの観光情報(アクセス・所要時間の目安)

諏訪大社四社は、諏訪湖をはさんで上社(茅野市)下社(下諏訪町)に分かれて点在しています。
そのため、車と電車では移動の考え方やプランが少し異なります。ここでは、それぞれのアクセス方法と所要時間の目安をまとめました。

車で訪れる場合(高速道路利用)

車での移動は、四社を効率よく巡りたい方に最も向いています。
起点は、諏訪エリアの玄関口となる以下のインターチェンジです。

  • 上社方面:諏訪IC
  • 下社方面:岡谷IC

各社までの所要時間(車)

  • 諏訪大社 上社前宮
    諏訪ICから:約10分
  • 諏訪大社 上社本宮
    諏訪ICから:約15分
    上社前宮から:約10分
  • 諏訪大社 下社春宮
    岡谷ICから:約15分
    上社本宮から:約30分(諏訪湖経由)
  • 諏訪大社 下社秋宮
    岡谷ICから:約10分
    下社春宮から:約5分

※各社ともに参拝者用駐車場があります。

車利用の場合の全体所要時間(目安として)

  • 四社すべて参拝:約4〜5時間
  • 周辺散策・食事を含める場合:約6〜7時間(1日)

電車で訪れる場合(JR中央本線)

電車利用の場合は、上社と下社を分けて考えるのがポイントです。徒歩やバスを組み合わせることで、無理なく巡ることができます。

起点となる駅

  • 上社方面:JR茅野駅
  • 下社方面:JR下諏訪駅

各社までの所要時間(電車+徒歩・バス)

  • 諏訪大社 上社前宮
    JR茅野駅から:バス+徒歩で約30分
    徒歩のみの場合:約40分
  • 諏訪大社 上社本宮
    JR茅野駅から:バス+徒歩で約15〜20分
  • 諏訪大社 下社春宮
    JR下諏訪駅から:徒歩約25分
  • 諏訪大社 下社秋宮
    JR下諏訪駅から:徒歩約10分

※上社と下社の移動は、JR茅野駅〜JR下諏訪駅間を電車で移動(約10分)するのが一般的です。

電車利用の場合の全体所要時間

  • 四社すべて参拝:約5〜6時間
  • 徒歩が多いため、時間には余裕を持つのがおすすめです。

諏訪大社めぐりとあわせて訪れたいおすすめ観光スポット

諏訪大社の参拝は、それ自体が旅の軸になりますが、周辺には「土地の文化」や「自然」をより深く感じられる場所が点在しています。
ここでは、特に相性の良いスポットを3か所ご紹介します。

諏訪湖|信仰と暮らしをつなぐ風景

「諏訪湖」は、下社と深い関わりを持つ存在です。
湖畔を歩いていると、諏訪の信仰が「自然」と「生活」の中に溶け込んできたことが、感覚的に理解できます。

冬は観光船こそ少なくなりますが、その分、人も少なく、静かな湖の表情を楽しめます。
晴れた日には、湖面に映る山々がとても美しく、参拝後の余韻を味わう散策にぴったりです。

諏訪湖の周りをサイクリングでまわれるサイクリングロードも用意されており、温泉施設やランチも含めてゆっくり回れば一日中観光できますよ。

立石公園|諏訪湖を一望できる絶景スポット

「立石公園」は、諏訪湖を見下ろす高台にある公園です。
「信州のサンセットスポット」としても知られ、夕暮れ時には湖と町がオレンジ色に染まります。

四社を巡ったあとにここを訪れると、諏訪という土地全体を俯瞰で眺めることができ、「点だった参拝体験」がひとつの風景として結びつく感覚がありました。

下諏訪宿|歴史と温泉が息づく宿場町

「下諏訪宿」は、かつて中山道と甲州街道が交わる宿場町として栄えた場所です。
下社秋宮・春宮の周辺には、今も古い町並みが残り、歩くだけで歴史の重なりを感じられます。

日帰り温泉も点在しており、冬の参拝後に冷えた身体を温めるのにも最適です。
信仰・暮らし・旅人文化が交差してきた土地であることを、自然と実感できるエリアです。

おわりに|諏訪という土地を旅するということ

諏訪大社四社を巡る旅を通して感じたのは、諏訪という地域が、単なる観光地ではなく、「土地そのものが物語を持っている場所」だということでした。
山があり、湖があり、人の暮らしがあり、そしてそのすべてと寄り添うように信仰が息づいている。その関係性が、今も無理のないかたちで続いていることが、何より印象的でした。

諏訪地域の観光は、目立つ名所を次々に巡るタイプの旅とは少し違います。
たとえば、湖畔を歩きながら空の色の変化を眺めたり、宿場町の路地をゆっくり歩いたり、温泉で体を休めたり。そうした時間の積み重ねの中で、この土地の魅力が静かに伝わってきます。

中心にあるのは、諏訪湖という大きな自然の存在です。湖を囲むように町が広がり、その周囲に神社や温泉、集落が点在している。この地形そのものが、諏訪の歴史や文化を形づくってきました。
また、下諏訪宿のように、かつての街道文化が今も色濃く残る場所では、旅人を迎えてきた土地の記憶を感じることができます。

諏訪の魅力は、季節によっても大きく表情を変えます。
春はやわらかな空気と芽吹きの気配、夏は湖と山の涼しさ、秋は紅葉と実り、そして冬は、今回訪れたような澄んだ空気と静けさ。どの季節に訪れても、その時ならではの諏訪が迎えてくれるはずです。

観光地として派手に主張するのではなく、訪れる人の歩幅に合わせて、そっと魅力を差し出してくれる。
諏訪という地域には、そんな懐の深さがあります。

諏訪大社を巡る旅は、神社参拝にとどまらず、土地の成り立ちや、人々の暮らし、自然との関わりを見つめ直す時間でもありました。
また季節を変えて、今度は違う目的を持って、この土地を歩いてみたい。そう思わせてくれる余韻が、今も心の中に残っています。

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Satoko
Satoko
趣味はおいしいものを食べること、なんて大人ならば基本中の基本かもしれませんが、おいしいものをいただくと幸せな気分になれますよね。
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